■今回取り上げる話
今回取り上げるのは、『ウルトラマン』「遊星から来た兄弟」である。
この作品は、ザラブ星人がにせウルトラマンへと変身し、人類とウルトラマンの信頼関係を破壊しようとするエピソードとして知られている。
しかし、この話で描かれているのは単なる偽装工作ではない。
ここで描かれているのは、
「脅威を作り出した者が、その脅威を解決することで信頼を獲得する構造」
である。
戦争や政治の世界では、人々を守る存在は大きな支持と正統性を得る。
だが、その「守る存在」自身が危機の発生源だったらどうなるだろうか。
「遊星から来た兄弟」からは、そうした問題を見ることができる。
■今回のテーマ
人々は危機に直面すると、それを解決できる存在を頼るようになる。
そのため、危機を取り除いた人物や組織は大きな信頼を獲得できる。
政治社会学者の チャールズ・ティリー は、このような構造を説明する中で「保護ラケット」という考え方を示した。
保護ラケットとは、
- 危険が存在する
- 保護者が現れる
- 保護の見返りに服従や対価を得る
という構造である。
さらに極端な場合には、
- 危険を作り出す
- 保護者として現れる
- 支配権を得る
という形になる。
これはマフィアが保護料を徴収する仕組みにも似ている。
「遊星から来た兄弟」で描かれているのも、この問題である。
ザラブ星人は放射能霧という危機を発生させ、その後で霧を消し去ることで地球人の信頼を獲得しようとした。
つまり彼は救世主を演じていたのである。
■ストーリー
ある夜、東京一帯が致死量の放射能を含む濃霧に包まれる。
科学特捜隊が調査を進める中、巨大な宇宙船が出現し、その霧を瞬く間に消し去る。
宇宙船から現れた宇宙人は、自らをザラブ星人と名乗った。
彼は、
「ザラブとは我々の言葉で兄弟を意味する」
と語り、地球人に友好的な態度を示す。
突然現れた救世主に、多くの人々は好意的な反応を示した。
しかしハヤタだけは、その態度に不審を抱く。
やがてザラブ星人の正体が明らかになる。
放射能霧は偶然発生した災害ではなかった。
それはザラブ星人自身が発生させたものだったのである。
彼は自ら危機を作り出し、自らそれを解決することで地球人の信頼を獲得しようとしていた。
さらにザラブ星人は、にせウルトラマンへと変身し、人類とウルトラマンの信頼関係まで破壊しようとする。
すべては地球支配のための計画だったのである。
■現実世界の話
現実の政治や戦争の世界でも、危機が権力や正統性の獲得に利用されることがある。
例えば、満州事変 では、南満州鉄道爆破事件が軍事行動の口実として利用された。
また、国会議事堂放火事件 では、事件後に非常措置が拡大され、政治権力の強化につながった。
もちろん、これらはザラブ星人のように自ら危機を解決して救世主として歓迎された例ではない。
しかし、
危機が権力や正統性の獲得に利用される
という点では共通している。
また、ティリーが例として挙げた保護ラケットでは、保護者が危険から守る見返りに服従や対価を得る。
そして最も悪質な場合には、その危険の発生源そのものが保護者である。
ザラブ星人の行動は、まさにこの構造に近い。
■この話の意味
「遊星から来た兄弟」は、単なる侵略宇宙人の物語ではない。
ザラブ星人は最初から武力で地球を征服しようとはしていなかった。
まず放射能霧によって危機を作り出し、
次にその危機を解決し、
そして地球人の信頼を獲得しようとした。
彼が求めていたのは、
地球を支配する力だけではなく、地球人から信頼される立場
だったのである。
戦争や政治の世界では、脅威そのものだけでなく、
「誰がその脅威を作り出したのか」
を見極めることが重要である。
ザラブ星人は、その危険性を非常に分かりやすく示した宇宙人だったのである。