特撮オタクの皆さんは、自分の好きな作品、特に仮面ライダーやウルトラマンなどテレビで半年~1年放送されるものを人に見てほしいとき、どのように薦めているだろうか。設定やスーツデザイン、キャストなど興味を引きそうな要素を示すのか、序盤のあらすじを説明するのか、あるいは「ラストで絶対泣いてしまう」「この2人の関係性が尊すぎる」といった、感情に訴えかける演説をするのか……。いずれにしても、CMなど諸々飛ばしても約20分×2クールないし4クール程度ある作品を見てもらうのには、なかなか高いハードルがある。
そこで、「このエピソードさえ見てくれれば、きっと好きになってくれるはず」つまり、その作品の良さが詰まっていたり、話が大きく動き出すターニングポイントになっていたりする回を挙げて、「とりあえず○話まで(○○が△△するまで)見て!」という宣伝手法がとられることがある。基本的に、この言葉はとりあえずの視聴ハードルを下げたり、早いうちに面白い展開が期待できることを示して安心感や期待感を抱かせたりするために使われる。しかし、時には「序盤に起こりそうだが終盤まで引っ張ること」「終盤に起こりそうだが序盤に起こること」をネタにした大喜利にも使われる。(ウルトラマンネクサスは主人公が変身するまで見て、ニンニンジャーは主人公の実家が爆発するまで見て、など)
筆者もこの文句で作品を薦めることがあるのだが、特に一番好きな作品である『仮面ライダーOOO/オーズ』(全48話)を薦めるとき、以下のように言っている。
「オーズはとりあえず42話まで見て!」
ネタでも大喜利でもなく、本気である。
もちろん、42話までにも面白いエピソードやターニングポイントはたくさんあるし、主人公・映司と怪人・アンクの互いに利用しあう関係やメダル争奪戦からは目が離せないし、つまり最初からずっと面白いと思っていていくらでも人に勧められるのだが、兎にも角にも42話を見てほしいのである。
なぜそんなにもオーズ42話を見てほしいのか。それは、最悪の形で「みんなのヒーロー」を描き、映司の人となり、そして本作のテーマ「欲望」と否応なく向き合わされるエピソードだからである。
 

「君の中のメダルの話をしましょう」。真木は映司に紫のメダル、そしてグリードについて話を進める。紫のメダルを体内に入れた2人には、同じ現象が起きている。それに気付き始めていた映司だったが…。真木が生み出した恐竜ヤミー(アンキロサウルス)は人々を氷らせ、襲い始める。それは真木が指示した作戦だった。

- (引用:仮面ライダーWEB【公式】|仮面ライダーオーズ/OOO 第42話「氷とグリード化と砕けた翼」https://www.kamen-rider-official.com/riders/12/episodes/621)

あらすじには、作戦の指示にしたがって人々を凍らせたとあるが、この作戦が非常に恐ろしく、悪趣味なものだった。まず、街中に現れたアンキロサウルスヤミーは、周囲の人々の足元を氷漬けにした。人々が口々に助けを求める中、ヤミーは「助けて欲しければオーズに頼め」と言って、オーズの名を叫ばせようとする。オーズは世間に知られておらず、人々は誰のことかと戸惑うが、ヤミーが1人の男性を全身氷漬けにして木っ端微塵に砕いたことで空気が一変、人々は恐怖に怯えながら「助けてオーズ」と叫び、その声は満身創痍の映司を戦いへ向かわせた――。
襲われた人々が、訳もわからずただ恐怖に怯えながら「自分たちを救ってくれるらしいなにか」を呼ぶ姿は、地獄で名も知らぬ神にすがるようでもあり、子供たちが登場の期待を込めて大好きなヒーローを呼ぶヒーローショーの強烈なアンチテーゼでもある。そして、映司はその「神」の役割を引き受けて、人々を救う戦いへと向かう。
劇中ではヒロインをはじめ周囲の人々に何度も止められており、人々の助けを求める声が聞こえても

「やめて… 勝手に呼ばないで…! 映司君は神様じゃない!!」

- (てれびくん【公式】https://x.com/Televi_Kun/status/1813312650350133542?lang=jaより一部抜粋)

とまでいわれている。つまり、仮面ライダーとして人々を守るために戦うことが肯定的に描写されていない。まるで、「『みんなのヒーロー』とは、実際のところみんなに求められ愛され感謝されるものではなく、見知らぬ誰かの痛みや苦しみや困難を都合よく引き受けてくれる存在なのではないか?」と視聴者に問いかけているかのようだ。
映司は人々を救わんと手を伸ばし、「みんなのヒーロー」を全うしようとしている。一方で、心配して救いの手を差し伸べてくれている周囲の人たち、そして自分自身のことは蔑ろにしてしまっている。一見ヒロイックな主人公の性格を「自分への無欲さ」と「人を助けたい欲の強さ」に解体し、その欲望のアンバランスさ、危うさを鮮烈に示したこの回は、欲望をテーマとする本作においても、長年ヒーローを生み出し続けてきた仮面ライダーシリーズにとっても、非常に重要なエピソードであるのだ。
 
「オーズはとりあえず42話まで見て!」と言いたくなる理由がお分かりいただけただろうか。このブログを読んでくれたあなた、ぜひオーズ42話まで見てみてください。(そこから最終回まで6話なので、やっぱり最終回まで見てください。)
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