■今回取り上げる話

今回取り上げるのは、ウルトラセブン「ダーク・ゾーン」である。
この回は、単なる宇宙人侵略のエピソードではない。
ここで描かれているのは、
「国家はなぜ戦争を行うのか」
という問題である。
一般に、戦争は「悪意」や「侵略欲」によって起こるものとして理解されがちである。
しかし現実の国際政治においては、国家はしばしば、
・生存
・安全保障
・文明の維持
といった、自らの国益を守るために戦争を選択する。
『ダーク・ゾーン』が描いているのも、まさにその構造である。

■今回のテーマ

戦争が発生するのは、国家の間に対立が存在しているからである。
そして、その対立を軍事行為によって解決しようとしたとき、戦争が発生する。
国際政治学者 K・ノール は、他国民の利益と対立する利益、あるいは政府の国際的活動を必要とする利益は、どのようなものであれ戦争の原因となり得ると述べている。
では、国家を対立させる最大の要因とは何なのだろうか。
それが国益である。
国家は、自国の利益を守るために、ときとして戦争という手段を選択する。
アメリカの政治学者 ロバート・オスグッド は、外交政策において最優先されるべきは国益であり、「戦争を避けること」自体を政策目的とすべきではないと論じている。
また、思想家 ラインホールド・ニーバー も、戦争は避けるべきものであるとしながらも、専制主義とは戦わなければならない場合があると主張している。
つまり国家は、
「自らの存立を守るためならば、武力行使も選択する」
という論理の上に存在しているのである。
ただし、ここで注意しなければならないのは、
「国益が存在すること」と、
「その行為が正しいこと」
は同じではないという点である。
国家はしばしば、自らの利益を理由として戦争を行う。
しかし、それによって生じる犠牲や破壊が正当化されるわけではない。
「ダーク・ゾーン」は、この国益の衝突を非常にわかりやすい形で描いた作品である。

■ストーリー

アンヌの部屋に、不気味な「ダーク・ゾーン」が現れた。
その主は、宇宙空間都市ペガッサ市からやって来たペガッサ星人であった。
彼は、ペガッサ市の動力系統が故障し、都市が制御不能となって地球へ向かっていることを明かす。
ペガッサ星人は地球側に衝突回避への協力を求める。
しかし地球の軌道を変更することは、人類の科学力では不可能だった。
地球防衛軍はさまざまな方法を検討した末、人類の生存を守るため、ペガッサ市を宇宙空間で爆破する方針を決定する。
それを知ったペガッサ星人は、自らの都市と同胞を守るため、今度は地球を内部から爆破しようと動き出す。
ダンは説得を試みるが交渉は決裂する。
やがてウルトラ警備隊によってペガッサ市は破壊される。

■現実世界の話

このような構造は、現実の歴史においても繰り返し現れている。
たとえば太平洋戦争前夜、日本は深刻な資源不足という問題を抱えていた。
当時の日本は、石油や鉄鋼などの重要資源を海外に依存しており、経済制裁や輸入停止は国家の存立そのものを脅かしかねない状況であった。
そのため日本側には、
「国家が生き残るためには、資源を確保しなければならない」
という国益が存在していた。
一方、アメリカ側から見れば、日本の軍事的拡大はアジア太平洋地域の安全保障を脅かすものであった。
そのためアメリカは、日本に対して経済制裁や石油輸出禁止措置を行った。
つまり、
・日本にも国益がある
・アメリカにも国益がある
という構造であった。
これは、
・ペガッサ市は自らの都市を守ろうとした
・地球側は地球の存立を守ろうとした
という『ダーク・ゾーン』の構造とよく似ている。
また現代においても同様である。
ロシアによるウクライナ侵攻では、ロシア側は自国の安全保障圏維持を主張している。
これに対し、ウクライナ側は自国の主権と独立を守ろうとしている。
さらに欧米諸国もまた、自らの安全保障秩序維持という観点から関与している。
つまり現実の国際政治においても、
「それぞれが、自らの国益を守ろうとしている」
という構造が存在しているのである。

■この話の意味

この視点から見ると、『ダーク・ゾーン』が描いているものの意味も理解しやすくなる。
ここで描かれているのは、
・正義と悪の対立
・善人と悪人の戦い
ではない。
それは、
「国益同士の衝突」
なのである。
ペガッサ星人は、自らの都市を守ろうとしていた。
地球側もまた、自らの生存を守ろうとしていた。
どちらにも守るべき共同体が存在していたのである。
「ダーク・ゾーン」が優れているのは、宇宙人を単純な侵略者として描かなかった点にある。
そこでは、
「相手にも、相手なりの論理と国益が存在する」
という、国際政治の本質が描かれている。
そして、この物語が示しているのは、きわめて単純な事実である。
戦争とは、単なる悪意によって起こるのではない。
それは多くの場合、
「互いが、自らの生存と共同体を守ろうとした結果」
として発生するのである。
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