■今回取り上げる話
今回取り上げるのは、『ウルトラマンテオ』第1話「H12から来た男」です。
主人公・光石イブキは、宇宙怪獣の侵略によって、故郷である惑星H12を失います。彼は、戦士として名を馳せた英雄では、ありません。ただ、生き延びただけの、一人の若者でした。故郷は滅び、帰る場所は、もう、どこにもない。
地球へ逃れたイブキは、平和な学生として、静かに暮らそうとします。ですが、新たな侵略者が現れたとき、彼は、再び戦うことを、決意します。この物語が描いているのは、ヒーローの誕生だけでは、ありません。故郷を失った者が、新しい土地と、どう向き合うのか。その、選択の物語です。
■今回のテーマ
戦争は、多くの人々から、故郷を奪います。奪われるのは、家だけでは、ありません。家族や友人、慣れ親しんだ文化、積み重ねてきた思い出、そして何より、「帰る場所」そのものです。戦いが終わっても、帰るべき場所が、もう存在しない。そういう人々が、歴史のなかには、無数にいました。
そして、故郷を失ったあと、人が歩む道は、一つでは、ありません。ある者は、奪われた故郷を、取り戻そうとします。武器を取り、いつか帰るために、戦い続ける。ある者は、たどり着いた新しい土地で、静かに暮らすことを望みます。もう戦いには、関わりたくない。そして、ある者は、新しい土地を、自分の故郷として引き受け、それを守るために、戦う道を選びます。
同じ喪失を経験しても、そこから伸びる道は、いくつにも分かれます。故郷を失った、という事実そのものは、その人がどう生きるかを、決めません。決めるのは、そのあとの選択です。戦争が終わっても、人は、どこで、誰のために生きるのか、という問いを、抱え続けることになるのです。
■ストーリー
惑星H12は、宇宙怪獣の大軍による侵略を受け、滅亡します。生き残った青年・光石イブキは、地球へ逃れました。
地球で、イブキは、普通の大学生として、静かに暮らしていました。ですが、故郷での敗北は、彼の心に、深い傷を残しています。守れなかった、という記憶。そして、再び戦うことへの、恐怖。彼は、もう一度あの戦いに身を投じることを、恐れていました。
そんななか、宇宙怪獣ヴィアロガが、地球へ現れます。街は混乱し、人々は逃げ惑いました。その中で、イブキは、取り残された一人の少年を、目にします。一度は、恐怖のあまり、立ち尽くしました。故郷でも、彼は、守れなかったのです。それでも、彼は、少年を守ろうと、決意します。そして、故郷の鉱石「テオクリスター」の力によって、ウルトラマンテオへと、変身しました。
故郷を守れなかった青年は、こうして、新しい世界を守る戦士と、なったのでした。
■現実世界の話
故郷を失った人々が、そのあと、どのような道を歩むのか。これは、現実の歴史が、繰り返し突きつけてきた問題です。
第二次世界大戦後のユダヤ人は、その一つの例です。ナチス・ドイツによる迫害を生き延びた人々の多くは、戦後、新たな国家イスラエルの建設に、参加しました。故郷を奪われ、迫害され、行き場を失った人々が、安住の地を求めた結果です。ですが、その土地には、もともと、パレスチナの人々が暮らしていました。故郷を失った人々が、新しい故郷を求める。その営みが、そこに暮らしていた人々の生活と、衝突する。こうして生じた対立は、いまなお続く、深刻な問題となっています。ここで、その是非には、立ち入りません。ただ、故郷の喪失という経験が、そのあとの選択を通じて、新しい困難を生むことがある、という事実は、確認しておきたいと思います。
一方で、まったく違う道も、あります。一九七五年のベトナム戦争終結の前後、インドシナ三国では、新しい体制のもとで迫害を恐れた人々が、国外へ脱出しました。小舟で海へ出た人々は、ボートピープルと呼ばれます。その総数は約百四十四万人にのぼり、うち約百三十万人が、アメリカ、オーストラリア、カナダ、フランス、そして日本といった国々に、定住しました。日本も、一九七八年の閣議了解でベトナム難民の定住を認め、これまでに一万一千人を超えるインドシナ難民が、この国で暮らしています。
注目したいのは、その後です。日本に逃れたボートピープルの子どもたちのなかには、この国で教育を受け、言葉の壁を乗り越えて定住し、いまでは、新たに日本へ来るベトナム人や外国人を、支援する側に回っている人々がいます。かつて、助けられた者が、助ける者になる。奪われた者が、新しい場所で、誰かを守る側に立つ。同じ「故郷を失う」という経験をしても、そのあとに選ばれる道は、決して、一つでは、ないのです。
■この話の意味
『ウルトラマンテオ』の第1話が興味深いのは、まさに、この「故郷を失った者の選択」を、正面から描いている点です。
ウルトラシリーズには、同じように故郷を失った存在が、すでに、いました。初代『ウルトラマン』に登場した、バルタン星人です。バルタン星人もまた、母星を失い、新たな住みかを求めて、地球へやって来ました。彼らの境遇は、イブキと、驚くほど似ています。滅んだ故郷。行き場のない、生き残り。新しい土地への、到着。
ですが、彼らが選んだのは、侵略という手段でした。ここに住むために、ここに住む者を、退けようとしたのです。
イブキは、違いました。彼もまた、故郷を失っています。それでも、地球を奪おうとは、しませんでした。地球人として暮らし、そして、地球の人々を守るために、戦うことを選びます。逃げ惑う人々のなかで、取り残された少年を見たとき、彼は、恐怖を押して、前に出ました。かつて故郷を守れなかった者が、今度は、この土地を守る側に、立ったのです。
同じ「故郷を失った者」でありながら、一方は侵略者となり、一方は守護者となった。この違いを生んだのは、故郷を失った、という事実では、ありません。失ったあと、新しい土地と、どう向き合うのか。その、選択でした。
奪われた者は、奪う者になることも、守る者になることも、できます。境遇が、道を決めるのでは、ありません。喪失は、その人を、被害者にはしますが、加害者にも、守り手にも、自動的にはしない。どちらへ進むかは、そのあとに、選ばれるのです。『ウルトラマンテオ』第1話は、ヒーロー誕生の物語であると同時に、戦争が人から故郷を奪ったあと、それでも人は、どのように生きるのかを問いかける、物語でもあると言えるでしょう。