■今回取り上げる話
今回取り上げるのは、『ウルトラセブン』第25話「零下140度の対決」である。
この回は、ポール星人と凍結怪獣ガンダーによって地球防衛軍基地が氷結し、ウルトラ警備隊が危機に陥るエピソードとして知られている。
しかし、この作品にはもう一つ注目すべき点がある。
それはアンヌ隊員である。
ウルトラシリーズの女性隊員といえば、多くの人は「ヒロイン」という言葉を思い浮かべるだろう。
だが、この回のアンヌ隊員を見ていると、別の疑問が浮かんでくる。
彼女は本当に、ヒロインだっただけなのだろうか。
あるいは、
戦士だったのだろうか。
■今回のテーマ
戦争や軍事の歴史を振り返ると、女性は長い間、戦場の外側にいる存在として語られてきた。
しかし実際には、
- 通信
- 情報収集
- 輸送
- 看護
- パイロット
など、さまざまな形で戦争に参加してきた。
政治学者のサラ・パーシー は、女性は戦争に参加していなかったのではなく、
戦士として認識されてこなかった
のだと論じている。
つまり問題は、
「女性が戦ったかどうか」
ではなく、
「女性を戦士として見ていたかどうか」
なのである。
そして、この問題はウルトラシリーズにも見ることができる。
■ストーリー
ポール星人と凍結怪獣ガンダーの襲撃により、地球防衛軍基地は危機に陥る。地下の動力室に侵入したガンダーが原子炉を破壊し、基地は停電。周辺の気温は零下140度まで下がっていく。
原子炉が止まったことで、ウルトラホークをはじめとする超兵器はシャッターさえ開かず、出動できない。基地は防衛機能そのものを失った状態に追い込まれる。
ウルトラアイを雪の中に落としてしまったモロボシ・ダンは、ウルトラセブンに変身できない。彼はカプセル怪獣ミクラスを呼び、ガンダーに立ち向かわせる。やがてウルトラアイを見つけて変身するが、寒さでエネルギーを消耗したセブンに戦う力は残っておらず、エネルギー補充のため太陽の近くまで飛び去る。
その間、隊員たちは凍てつく基地で原子炉の復旧作業を続ける。寒さで次々と倒れていく中、最後まで残ったフルハシ隊員の手で原子炉はついに再始動し、基地は息を吹き返す。
動力を取り戻したウルトラ警備隊は、ここで反撃に転じる。ウルトラホーク1号がアルファ号・ベータ号・ガンマ号に分離し、ウルトラホーク3号と合わせた4機でガンダーへ一斉攻撃を仕掛ける。これが「カルテット作戦」である。
そして、この作戦のなかでアンヌ隊員はウルトラホークの一機を操縦し、ガンダーへの攻撃に加わる。普段はポインターやメディカルセンターでの姿が印象に残るアンヌが、自らホークを操って怪獣に向かっていくのである。
最後は、エネルギーを満たして帰還したウルトラセブンがアイスラッガーでガンダーを倒し、地球の危機は去る。ポール星人は「地球人の使命感と忍耐に負けた」と言い残して去っていくのであった。
■現実世界の話
女性が軍事組織へ参加するようになったのは、最近のことではない。
例えば第二次世界大戦中のソ連では、多くの女性が狙撃兵や戦闘機パイロットとして実戦に参加した。
また、イギリスやアメリカでも、女性は通信や輸送、対空監視などの重要な任務を担っていた。
戦場に立つのは男性だけではなかったのである。
しかし、その活躍が語られる機会は決して多くなかった。
そのため、女性の軍事参加は長い間、歴史の中で見えにくい存在となっていた。
■この話の意味
ウルトラシリーズの女性隊員といえば、『ウルトラマン』のフジ隊員を思い出す人も多いだろう。
フジ隊員もまた科学特捜隊の正式な隊員であり、単なる見学者ではなかった。
しかし『ウルトラセブン』のアンヌ隊員になると、パトロールや捜査だけでなく、ウルトラホークの搭乗員として作戦行動そのものに加わる姿が、より明確に描かれるようになる。
「零下140度の対決」は、その象徴的なエピソードである。
アンヌ隊員は、通信室で状況を見守っていただけではない。
誰かに守られる立場にいたわけでもない。
カルテット作戦の一員としてウルトラホークを操縦し、怪獣ガンダーへの攻撃に加わっている。普段ほとんど見られない、彼女が機体を駆る場面である。
そして見落としてはならないのは、彼女がなぜ操縦桿を握ったのか、という点である。
普段のアンヌの持ち場は、医療や通信といった後方支援だった。
それが一転して前線に立ったのは、極限の状況があったからだ。
基地は零下140度で機能を停止し、多くの隊員が寒さに倒れ、フルハシは原子炉の復旧に張りつき、ダンも戦線を離れていた。
実戦に投入できる人員が払底するなかで、後方にいたアンヌまでがホークの操縦桿を握ることになったのである。
これは、美談としての「女性の進出」ではない。
組織が生き残りをかけた総力戦のなかで、普段の役割分担が崩れ、後方の者まで戦闘へ投入される――その結果として、ジェンダーによる役割の壁が崩れたのだ。
そしてこの構造は、現実の戦争とも重なる。
第二次世界大戦のソ連やイギリスで女性が前線や航空任務に本格的に投入された背景にも、男性の人的資源が枯渇したことによる総動員の実効的な要請があった。
アンヌがホークに乗る必然性は、その縮図でもある。
そしてこの攻撃は、太陽からセブンが戻るまでのあいだ、ガンダーと正面から渡り合う危険な任務でもあった。
つまりアンヌ隊員は、守られる側ではなく、戦う側に立っていたのである。
もちろんアンヌ隊員はヒロインでもある。
しかし、この回で描かれているのはそれだけではない。
彼女はウルトラ警備隊の正式な隊員として、他の隊員たちと同じように任務を担い、危険を引き受けている。
このことは、ポール星人が最後に残した言葉とも響き合う。
敗北を認めたポール星人は、「セブンに負けたのではない。負けたのは地球人の使命感と忍耐だ」と言い残して去っていく。
その「使命感と忍耐」は、最後まで基地に残って原子炉を再始動させたフルハシだけのものではない。
復旧を信じて出撃に備え、凍える手でホークを操り、危険な空中戦へ飛び込んでいったアンヌの忍耐もまた、そこに含まれている。
ポール星人が屈したのは、男性隊員の肉体的な強さだけではなかった。
性別を超えて、一人の隊員として持ち場を守り抜いた者たちの粘り――アンヌの「戦士としての忍耐」も、その一部だったのである。
「零下140度の対決」は、ガンダーとの戦いを描いた作品である。
しかし同時に、アンヌ隊員を単なるヒロインではなく、ウルトラ警備隊の一員として描いた作品でもある。
その意味で、この回は私たちにもう一つの姿を見せている。
それは「アンヌ隊員」というヒロインではなく、
任務を遂行する一人の隊員の姿なのである。