■今回取り上げる話
今回取り上げるのは、ウルトラマン「禁じられた言葉」である。
この作品は、メフィラス星人による地球侵略を描いた物語である。
しかし、ここで描かれているのは単なる侵略ではない。
メフィラス星人は、武力によって地球を征服しようとはしない。
あくまで地球人自身の承諾によって地球を手に入れようとするのである。
「禁じられた言葉」からは、そうした侵略の構造を見ることができる。
■今回のテーマ
侵略というと、多くの人は軍隊による武力占領を思い浮かべる。
しかし現実の歴史を見ると、侵略は必ずしも武力だけで行われるわけではない。
時には、・条約・契約・保護・承認
などの形式を利用しながら支配が進められる場合もある。
重要なのは、
「誰が支配しているのか」
であって、
「どのような形式が取られているのか」
ではない。
そして、こうした問題はウルトラマンにも描かれている。
■ストーリー
航空ショーの最中、ハヤタ隊員、フジ隊員、そしてフジ隊員の弟サトルが突然消息を絶つ。
彼らを拉致したのは、紳士を自称する宇宙人メフィラス星人だった。
メフィラス星人は、サトルに対し、
「地球をあなたにあげます」
という言葉を言わせようとする。
一方、科学特捜隊は行方不明となったハヤタたちの捜索を開始する。
その後、メフィラス星人はフジ隊員を巨大化させ、市街地に出現させるなどして混乱を引き起こす。
しかしサトルは最後まで要求に応じようとしない。
やがてハヤタはウルトラマンとなってメフィラス星人と対決する。
戦いは決着がつかないまま終わるが、最終的にメフィラス星人は地球から撤退するのであった。
■現実世界の話
この構図は、アメリカ大陸における植民地化の方法を強く想起させる。
一般に侵略というと、多くの人は軍隊による武力征服を思い浮かべる。
しかし実際には、アメリカ大陸の植民地化は単純な武力だけによって進められたわけではない。
むしろ多くの場合、
・条約・契約・土地譲渡協定
といった形式を通じて、土地の取得が正当化された。
もちろん、その背後には軍事力が存在する。
しかし重要なのは、侵略者たちがしばしば、
「我々は奪ったのではない。合法的に譲渡されたのだ」
という形を作ろうとした点である。
その方法には、いくつか典型的なパターンが存在する。
① 指導者への圧力と誘惑
全面的な武力征服は、大規模な抵抗を招く。
そこで侵略者は、部族長に対し、
・脅迫・利益供与・地位保障
などを行い、「契約」を結ばせる。
しかし実際には、共有地が部族全体の合意なく譲渡される場合も少なくなかった。
それでも侵略者は、契約書を盾に合法性を主張するのである。
② 指導者のすげ替え
従わない指導者を排除し、従順な人物を新たな指導者として擁立する。
そして、その人物との契約によって支配を進める。
もし抵抗が起これば、最終的には軍事力によって鎮圧される。
③ 契約範囲の拡大解釈
すでに支配下に置いた集団との合意を根拠に、さらに広い地域への権利を主張する場合もあった。
また近代以降の国際政治では、
・満洲国
・南京国民政府
・ヴィシー政権
などのように、現地政府を前面に立てながら支配を進める例も存在した。
こうした支配構造は、
「間接統治」
あるいは
「傀儡政権」
と呼ばれる。
重要なのは、
「誰が表に立っているか」
ではなく、
「実際に誰が支配しているのか」
である。
つまり侵略とは、単純な軍事行動だけではない。
・脅迫・誘惑・契約・形式的合法性
それらを組み合わせた、非常に複雑な構造なのである。
■この話の意味
この視点から見ると、メフィラス星人が地球を手に入れようとした方法の意味も理解しやすくなる。
彼は、地球を武力で奪おうとしたのではない。
あくまで、
「地球人自身の承諾」
という形式を作ろうとしていたのである。
もしサトル少年が、
「地球をあなたにあげます」
と言ってしまえば、メフィラス星人は、
「奪った」のではなく、
「譲り受けた」
と主張できる。
だからこそ彼は、最後までその言葉を言わせようとしたのである。
しかしサトルは、それを拒んだ。
その一言が発せられなかったことで、メフィラス星人の計画は完成しなかった。
「禁じられた言葉」が描いているのは、単なる怪獣退治の物語ではない。
それは、
「侵略はどのような形で行われるのか」
という問題を、極めて分かりやすい形で描いた作品なのである。