■今回取り上げる話

今回取り上げるのは、ウルトラセブン「蒸発都市」である。
これまで見てきたように、国家や集団はしばしば、
・生存
・安全保障
・文明の維持
といった利益を守るために行動する。
しかし現実の国際政治においては、
「自分たちを守るための行動」
そのものが、逆に相手との対立を激化させてしまう場合がある。
つまり、
「防衛のための行動」
が、
「攻撃準備」
として受け取られてしまうのである。
その結果、双方が相手を警戒し、対立が拡大していく場合がある。
『蒸発都市』からは、そうした問題を連想させる部分を見ることができる。

■今回のテーマ

国際政治学者のジョン・ハーツは、
「安全保障のジレンマ」
という考え方を示している。
これは、
「自分を守るための行動が、相手には脅威として映ってしまう」
という問題である。
その結果、
「相手に先に攻撃される前に動かなければならない」
という不安が広がり、対立が拡大していくことがある。
つまり、最初から全面戦争を望んでいなくても、
「相手を信用できない」
という状態そのものが、戦争を引き起こしてしまう場合があるのである。
こうした考え方は、『蒸発都市』に登場する宇宙人と地球側の対立にも重なる部分がある。

■ストーリー

ある夜、パトロール中のダンとソガの両隊員が失踪してしまった。
さらに翌朝、事件現場近くのビル街そのものが蒸発してしまう。
これは、太陽系外の惑星からやって来た宇宙人が、一時的な宇宙乱流を避けるため、地球上に居住区を築こうとしていたためであった。
ダンとソガは、自分たちの活動を妨害させないための人質にされていたのである。
宇宙人側は、
「居住区に近づかなければ人質は返す」
と通告していた。
しかし、アンヌたちが居住区へ侵入したことによって、宇宙人は街への攻撃を開始する。

■戦争はいつ始まったのか

この紛争では、
「戦争はどの時点で始まったのか」
という問題を考えることができる。
たとえば、湾岸戦争についても、
「イラク軍がクウェートへ侵攻した時点」
を戦争開始と見る立場もあれば、
「多国籍軍による空爆開始」
を本格的戦争の開始と見る立場も存在している。
この考え方を『蒸発都市』に当てはめるなら、
宇宙人側がビル街を占拠した時点を、
「勃発点A」
街への攻撃が開始された時点を、
「勃発点B」
と整理することもできる。
もちろん、勃発点Aの時点で、宇宙人側の行為はすでに侵略行為であったと考えられる。
しかし一方で、勃発点Aと勃発点Bの間には、
「交渉」
「妥協」
「平和的解決」
の可能性も残されていたように見える。

■ダンカン側の論理

では、なぜ解決は実現しなかったのであろうか。
ここで重要なのは、
「相互不信」
である。
アンヌたちは、宇宙人側の通告を完全には信用しなかった。
そのため、危険を承知で居住区へ侵入した。
一方、宇宙人側も、侵入を受けてすぐに攻撃へ踏み切っている。
つまり双方とも、
「相手は信用できない」
という前提で行動していたように見える。
そして、その不信感が、交渉よりも武力行使を選ばせた可能性がある。
また、この問題の背景には、
「生まれ育った星が違う」
という問題も存在していたと思われる。
生まれ育った惑星が違うということは、
・文化
・価値観
・社会構造
・生物的性質
なども異なる可能性が高い。
現実の国際政治においても、
「相手が何を考えているのかわからない」
という不安は、対立を悪化させる原因となる。
そして、その不安が、先制的な行動や過剰防衛を引き起こす場合もあるのである。

■現実世界の話

このような問題は、現実の国際政治でも見られる。
国家は、自国の安全を守るために、
・軍備増強
・防衛体制の強化
・軍事同盟
などを進める場合がある。
しかし、その行動は相手国から見ると、
「攻撃準備」
として映る場合がある。
その結果、相手側も軍備を強化し、さらに対立が深まっていく。
これが、安全保障のジレンマである。
つまり双方とも、
「自分を守ろうとしている」
だけであったとしても、結果として戦争へ近づいてしまう場合があるのである。

■この話の意味

こうして考えると、「蒸発都市」が描いているものも見えてくる。
もちろん、この作品は基本的には、
「街を消滅させる宇宙人」
との戦いを描いたエピソードである。
しかしその一方で、
「相互不信」
「安全保障」
「戦争はどこから始まるのか」
という問題を連想させる部分も存在している。
宇宙人側は、自分たちの安全を守ろうとしていた。
しかしその行動は、地球側から見れば脅威そのものであった。
そして地球側の行動も、宇宙人側には敵対行為として映っていた。
『蒸発都市』は、
戦争は、単純な悪意だけではなく、
不信感や恐怖の積み重ねによっても拡大していく
ということを考えさせてくれる作品なのかもしれない。
ログイン 会員登録
あなたのコレクションを管理できる
コレクション管理 マイページ